「クリスマスに死体がふたつ」
ジェイニー・ボライソー著、山田順子訳
「クリスマスに死体がふたつ」
東京創元社 (2006/5/20)
ISBN-13: 978-4488198060
コーンウォール・ミステリ第3弾。
廃鉱でスケッチをしていた画家のローズは、突如女性の悲鳴を聞く。警察に通報したものの何の痕跡も見つからず、笑いの種になってしまう。しかし本業は順調で、地元芸術家達との付き合いも始まり、新しい恋人候補もできたのだが、その彼の元恋人が死体で見つかり、ローズまでもが容疑者に。元恋人のジャック警部と角つき合わせながら、ローズは彼女なりに行動を開始するのだが。
第1作以来、ミステリーの謎解きだけでなく、ローズの恋愛模様も主要筋の一つなのだが、また今回も肩透かし。
夫を亡くしてから長い落ち込み期を過ごした彼女、ようやく立ち直り始めたと思ったら、たちまち次々と候補が現れて。が、コーンウォール地方の暗めの雰囲気とローズの強い自己心が、お手軽な方向に流させることなく、冷静に物語を進ませる。
1作目・2作目とミステリーの質が上がってきて、今作の事件の筋立てが今まで一番良くできている。登場人物が増えたが、芸術家揃いであるだけに個性豊かで、そんな彼らが事件を余計に複雑に絡み合わせ、謎解きを面白くしている。
ローズのただ真っ直ぐに絵に向かう姿勢が、彼らのような集まりの中ではかえって光るわけだが、そんな彼女もシリーズを重ねると、そんな側面を出すのだろうか、との期待(?)も抱く。
今作ではクリスマス前後の時期が舞台なので、街の華やかな情景や、人々の忙しいながらも楽しい様子などもうかがえる。回を追うごとに色の層を重ねて密度を増していっているシリーズだが、舞台が舞台なだけにともすると暗くなりがちなので、このような華やかさの点描は歓迎だ。
個人的にジャック贔屓なので、なんとかローズと元の鞘に収まってくれないだろうかとやきもきしてるのだけど、ローズにはその気はすっかり無いようで寂しいったら。「良い友達」の位置から、今後彼女の恋愛模様を眺めていくのかと思うと、ジャックに同情の涙がダーダーとね。
by wordworm | 2006-09-07 04:43