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「幽霊探偵からのメッセージ」

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アリス・キンバリー著、新井ひろみ訳
「幽霊探偵からのメッセージ」
ランダムハウス講談社 (2006/1/22)
ISBN-13: 978-4270100271


ミステリ専門書店の店主と、その店に住み着く幽霊とのシリーズ第一作。

シングルマザーのペネロピー、伯母の本屋を共同経営することになり、その最初の企画として、売れっ子ミステリー作家を呼んだサイン会を開催する。
ところがその会場で作家が急死、更に幽霊が登場。死んだ作家の書いたシリーズの主人公のモデルとなった私立探偵らしい。彼の力を借りながら、ペネロピーは犯人を見つけるべく奮闘する。

またまた新しいコージーミステリー。さすがに食傷気味になってきたので、最近手を出すのを控えてはいるものの、これは中でも結構当たり、と思った本。地域密着で、個性的な地元民多数。色々と最近特に多いタイプのコージーの典型なのだけど、まずは主人公のペネロピーに、素直に好感と共感を抱いたのが大きいか。

結婚中は旦那と旦那の実家にいじめられ、仕事も華やかなNYの出版業界に身を置いていたものの、「真面目な努力家は報われず、押しの強いお調子者ばかりが引き立てられる」という現実の前に、彼女には最悪の日々でしかなかったらしい。しかしそんな思いをしても、彼女は核を変えず。
「自分をひけらかすのはいけないことであると教えられて育った。自慢はうぬぼれの表れであり褒められも讃えられもしない、と親からは言われた。そして正直なところ、今でも私はそれを信じている」
この言葉に、必要以上に惹かれてしまったのかもしれない、と自分で思う。努力家が報われるとは限らない、要領のいい奴ほど得をする。そんな苦い思いを幾度となく味わって、それでも自分の価値観を変えられず、子供に正にペネロピーの親のように教えて、しかしいつもそれで良いのかと自問自答を繰り返し。そんな葛藤する部分が共鳴したのであれば、自分でも思わず苦笑するしかないのだけど。

あとは幽霊探偵ジャックの存在だろう。最初にタイトルを見た時は、飽和しつつあるコージーだから奇抜さを狙ったのか、と思ったが、これがなかなか設定をしっかり固めてあるらしく、おとなしいヒロインにハードボイルドの味を添える。
ペネロピーの書店で命を絶たれたジャックは、なぜか書店から離れることができない。一体彼の最後に何が起こったのか、この先ずっとこのままなのか、その謎が今後シリーズを通して解かれていくようだ。

ジャックの謎、ペネロピーの成長ぶりと、この先の作品を楽しみにするだけの種は、十分撒かれている。ミステリ書店が舞台なので、ミステリ作家名や作品名が色々出てきて、そんなところも楽しみの一つ。
ちなみに著者のアリス・キンバリーとは、マーク・セラシーニとアリス・アルフォンシという夫婦合作によるペンネームなんだそうですよ。

  by wordworm | 2006-08-17 13:04

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