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「恋するA・I探偵」

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ドナ・アンドリューズ著、島村浩子訳
「恋するA・I探偵」
早川書房 (2005/8/9)
ISBN-13: 978-4151724558


芸術家メグの楽しいミステリーを書いているアンドリューズの新シリーズ。こちらの主人公はしかし人間にあらず、感情を持つ女性型人工知能=AIのチューリング。

ネットワーク内に”住む”チューリングは、調査会社の顧客向けリサーチャー。人間に限りない興味を持つ彼女を作ったのはプログラマーのザックだが、ある日突然行方不明となる。
彼へほのかな恋愛感情を抱くチューリングは、社内の仲間の助けを借りて、なんとかザックを探し出そうとするうち、彼が巻き込まれた陰謀工作に気づくことになる。

体を持たないAIが頭脳になるなら、手足となるのがモードとティムという2人の同僚。あくまでもネットワーク内のプログラムにすぎないチューリングを、実在の人物として扱い向き合ってくれる彼らは、彼女の不安を笑い飛ばすこともなく、故障とみなすこともない、非常に献身的な仲間だ。
そんな2人に情報や指示を与える為に、ノートPCや携帯や盗聴器やカメラなどなど、ハイテク機器が次々と登場する。AIが主人公ではあるがSFではないので、舞台設定から小道具まで身近なもので構成されており、ミステリーとしての枠にスパイ物が加味されている内容。

メグのシリーズの方では、3行おきにツッコミが入る強烈なユーモアがまた楽しみどころだったが、こちらではそのユーモアはチューリングの学習課題でもあるところを利用して、別な笑いを誘う作りになっている。そしてその笑いは機械が多用されているせいか、どこか硬質な響きがある。
しかし無機質に走ることがないのは、チューリングのひたむきさ、モードの温かさ、ティムの懸命さがあちこちに散りばめられているからだ。クライマックスでは切ない涙と胸の痛みも用意されていて、ミステリーとしてと同時に、読み物として十分に面白い。

次作の発行を心待ちにすると同時に、次からは販売計画を変えてもらえないものかと願ってみる。だってこのタイトルと表紙、いかにも若い女性を狙った恋愛モノっぽくって、内容が良いだけにイタダケなさすぎ、悲しすぎ。
ちなみに原題は「You've Got Murder」であることを、作者の名誉の為に記しておく。なんちってなー。

  by wordworm | 2006-03-12 12:04

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