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「歴史の中の日本」

司馬遼太郎著
「歴史の中の日本」
中央公論社; 改版版 (1994/06)
ISBN-13: 978-4122021037


氏は歴史小説家として名高いが、この本はエッセイというより、小説を書く過程において思いつかれた・考えられたことを綴ったものがまとめられている。

歴史とは、勝者が語るものが正当とされることが多いものだ。
通り一遍の事実を知りたいと思った時、例えば教科書を見たり、百科事典を引いてみたりする。しかしそれは、確かに部分的に”事実”ではあろうが、決して”真実”ではないということを心に留めておきながら、目を通す必要があろう。
百人が関われば、百通りの解釈が成立する。だからこそ生まれてくるのが、歴史小説である。
荒唐無稽に想像力を働かせるだけでは出来上がらないのがこの分野。緻密な調査と膨大な知識という基盤が必須である。
小説全般にはすべからく必要だが、中でも調査がかなりの割合を占めるのではないだろうか。

氏の斬新な歴史解釈は「司馬史観」と呼ばれ、歴史小説に多大な影響をもたらしたと言われる。
その史観の一端をこの本で垣間見ることができるのだが、これが一端とすれば、氏の内部は宇宙並の広さだろうかと思われるぐらい、その知識は膨大で、洞察はあまりに深い。
特に日露戦争に関するくだりと、吉田松陰という人物についての解釈には、大きく目を見開く。

氏の著作は大人になってからよりむしろ、高校生時代に最も良く読んだ。父の本棚にあった「竜馬がゆく」「功名が辻」等、とにかく登場人物が魅力的で、惹きつけられるままに何回も読んだ。
が、今思えば、はまる時期をいささか誤ったかとも思う。今ならまた違った魅力を感じられる気が、ひしひしとする。
持っていた氏の本を全て日本に置いてきてしまったこと、この本を読んだ後は尚更悔やまれてならない。

  by wordworm | 2005-10-06 02:15

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