「シブミ」(上・下)

     sibumi

トレヴェニアン著、菊池光訳
「シブミ」(上):早川書房 (2011/3/10)、ISBN-10: 4150412340
「シブミ」(下):早川書房 (2011/03)、ISBN-10: 4150412359



せめて今年のうちに、1つでも。
の、悪あがきの感想、と言ったら、この作品に大変失礼極まりない。

ジャンルとしては、海外ミステリーと冒険小説、歴史フィクションが合わさったような。
とある事件をきっかけとして、引退したプロの殺し屋のニコライ・ヘルと、CIAを牛耳る巨大組織のマザー・カンパニイ(母会社)との戦いとなるのだが。
ニコライ・ヘルの特異な育ちと人生が、合間合間に挟まれて、最初は離れ離れの数本の糸が、徐々に集まり、より合わさって、なんとも骨太な物語を成していく。
その特異な育ちとは、上海に生まれたロシア系のヘルが、母の死後、日本で囲碁を学びながら成長したことだ。

タイトルの「シブミ」だが、原題もそのまま「SHIBUMI」である。
陸軍将校を育ての父とし、第二次大戦時は、東京大空襲も経験したヘル。
その父から教えられ、彼が人生の最終目標として掲げたのが、「シブミのある人間、動かし難い平静さをそなえた人間になること」であったのだ。

日本人としては、「渋み? 渋いとか、渋さのある、ではなくて?」などと、余計なことを思ってしまうのだけど。
常に冷静で、感情をあらわにすることのない存在を目指した彼が、正にそうあることが望ましい職業=殺し屋になることが、皮肉というべきか。決して、父が望んだ未来ではなかったであろうに。
だが、彼の資質を考えても、父への最後の親孝行を目撃しても、なるべくしてなったものであったのか。

外見こそ白人でありながら、日本人の価値観を持つヘル。
美意識としてのシブミを備える彼を見ていると、日本人が欧米社会で生きていくこと、そのものについても、深く考えざるをえない。
国際化だの、グローバルな視点だのが叫ばれるようになって、何十年も経つけれど。
その中で、日本人として譲れない一線を、一体どこに引くべきか。日本人読者だからこその読み方もできる本と言えるだろう。

国際的陰謀と、ヘルの人生談いう大筋がある傍ら、洞窟探検(ケイビング)やら、バスク人との交流やら、美しいヒロインとの愛情などなど、サイドと言うには勿体無い傍流が幾つもある。
加えて、欧米各国の様々な描写やジョークが、シリアスな場面にも端的に挟まれていて、大いに笑わせてもらった。

ラストシーンのヘルこそ、シブミを体現した存在と言われるにふさわしい、と思うのだ。
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  by wordworm | 2011-12-02 15:09

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