「ジョン・ランプリエールの辞書(上・下)」

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ローレンス・ノーフォーク著、青木純子訳
「ジョン・ランプリエールの辞書(上下)」
東京創元社 (2006/5/27)
ISBN-13: 978-4488202040

サマセット・モーム賞受賞の壮大なバロック小説、かつミステリー。

18世紀のイギリス、ジャージー島。重度の本の虫であるジョン・ランプリエールは大変な近眼であり、彼の目にする世界は常に霞んで歪み、どこか幻想のようだ。
ある日、彼が密かに惹かれる子爵家令嬢の水浴びを目撃してしまったジョンの父が、猟犬にかみ殺されるという事件が起きる。それは正にジョンが読んでいたところのギリシア神話そのままのように。ロンドンに向かったジョンは、医師に療法として薦められた辞書の執筆を始めることになるが、その合間に次々と謎の事件が。

久々に、身体がはちきれそうになるまで読んだ!と実感した本。満腹というより、遊園地のティーカップで思いっきりぐるぐる回った後のような眩暈と虚脱感。しかし気分は爽快だ。

まるで多重世界を覗き込んでいるかのような小説。ジョンは極度の近眼故、白昼夢を見る癖があるのだが、本の中の現実とジョンの妄想と、どれが真実で何が本当なのか、常に右往左往させられる。はっと浮かぶ"瞬間”を必死で追いかけていかなければ、そのまま迷宮に彷徨いこんでしまいそうで、ジョンと共に綱渡りをさせられっ放しで息つく暇がない。まるで巨大な万華鏡の中に放り込まれたようだ。

しかし万華鏡と思うには、それだけの美しい文章と華やかな情景が、多分に散りばめられているからで。ギリシア神話に詳しく、その固有名詞辞書を書いているジョンの周辺は、その時代のロンドンと神話の世界が奇妙に美しい形で融合している。そして夢中になって読み進むうちに、その世界は紐解かれ、少しずつ目くらましの鏡が壊れていき、全ての謎と企みが明らかになった最後では、一切が地に足がついた世界に変わっているのだ。
我ながら非常に抽象的な感想だと呆れるが、具体的なエピソードを並べるにはあまりに数が多すぎる。くらくらするほどの深さと密度を持った作品だ。

解説によると、古典学者ジョン・ランプリエールは実在し、「ランプリエールの辞書」とは、彼の著した「古典籍固有名詞事典」の通称であるという。実際にジャージー島生まれで、この辞書はギリシア・ローマ時代の神話や古典文学に言及されている人名・地名を網羅したものとなっており、彼はなんと18ヶ月という短期間でこの辞書を仕上げたそうだ。
この辞書と、東インド会社、フランスのユグノー弾圧といった歴史上の事件と絡めて、見事な時代考証と知識の上に描かれたミステリーがこの小説だ。
以前に読んだ小説でも東インド会社が主要テーマになっていて、いかにこの時代に大きな存在、そして大変な混乱をもたらしたものかということを教えられる。神話の時代から始まって、歴史は常に過去ではなく、こちらの目を開くものとして目の前にある。

自分が果たしてこの本を理解したかと言われると、ほとほと自信がないのが情けない。しかし十二分な満足感だけは確かに持っている。
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  by wordworm | 2006-12-28 05:44

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