「しゃばけ」

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畠中恵著
「しゃばけ」
新潮社 (2004/03)
ISBN-13: 978-4101461212


2001年度日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

江戸でも有数の廻船問屋の一人息子、一太郎。大層身体が弱く、家族には真綿でくるむような扱いをされている。しかもお付の者達は全て妖怪だ。
そんな彼が、ある日目撃した人殺し。犯人は捕まったにも関わらず、続々と続く同じ型の事件。妖怪達の助けを借りて、一太郎は少しずつ真犯人に近づいていく。

これは面白かった。元マンガ家さんが書かれた小説、というところでどんなものかと思ったが、マンガのテンポの良い軽さと、しかし派手に走らない抑えた言葉遣いが、いい具合に読者の背中を押してくれる。

若旦那のそばに、常に当たり前のように妖怪がかしずいている。というところですでに異常な設定なのに、全く気負いなく淡々と話は進む。妖怪と聞くと思い浮かべるおどろおどろしさは欠片もない。
この若旦那、本当に身体が弱い。この1冊の中でも、何回寝込んだかわからない。が、心まで弱いわけではないのだろう、という仄かな期待に徐々に応え、最後には見事に証明してくれる。そもそも幼い頃から妖怪と接してきて、彼らを良くも悪くも全て受け入れている時点で、並の虚弱ッキーではないのだな。

一太郎の懐の深さは、妖怪に関してに留まらない。金持ちで甘やかされた息子という世間の目も、幼馴染の苦労も、親の過剰な心配も、全て彼なりの流儀で受け入れている。それを諦めと見る向きもあろうが、無条件で異論も感傷もなくひたっているわけではなし、彼らの感情を理解した上での受容と思う。
ともすれば自己憐憫に溺れてもおかしくない環境の中で、身体は無理でも心を健全にもてたというのは、彼の賢さと同時に、育ての親と呼んでもよい2人の妖怪の存在のおかげかと思うと、その有り得なさに笑いがこぼれる。そしてどこかほんわりと心が温かくなるのだ。

妖怪は妖怪であるが故に、いくら完璧に人型をとろうとも、価値観の相違はどうしようもない。一太郎の持つ、人と妖怪の間に立つ平衡感覚の良さが、読んでいるこちらにその不自然さを自然に感じさせる要因の一つである。
彼らの生活は、すでに数冊発行されている続刊でのぞけるらしい。読み終わった後、即”買い”リストに追加した。
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  by wordworm | 2006-09-23 04:38

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