「ブルー・ブラッド」

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デイヴィッド・ハンドラー著、北沢あかね訳
「ブルー・ブラッド」
講談社 (2006/4/14)
ISBN-13: 978-4062753807


ゴーストライターのホーギーのシリーズで有名なハンドラーが出したのは、映画評論家を主人公にした新シリーズだ。

ミッチ・バーガーは32歳という若さながら、NYでも有名な新聞の映画批評家。しかし最愛の妻をガンでなくし、以来家にひきこもっている。見かねた編集者が提供したのが、コネティカットのドーセットで、旅行欄の為の保養地の取材記事を書くことだった。
昔からの裕福な一族が上に立つ閉鎖的な土地で、小屋を借りて生活を始めたミッチだが、ある日、庭に埋められた死体を発見する。女性警部補と共に捜査にかかるが。

ホーギー・シリーズは大好きで、今でも時々読み返す。その魅力の一つは主人公ホーギーが駆使する、軽妙で絶妙な会話のやりとりにある。正に思い描くところの、お洒落なニューヨーカーとライフスタイルが詰まってる。
比べてこの新シリーズでのミッチは、むしろヒキコモリ。しかも甘いもの大好きで小太りで、シャイな映画オタクだ。同じニューヨーカーでも全くタイプが違う。

しかしこの彼、実に洞察力に富んでいるんだな。それも、映画で観た世界を実生活に当てはめて応用する、という形でね。
普通だと、二次元の世界に閉じこもってちゃいかん、実社会でもまれろ!と言われてしまいそうだが、ミッチは見事にそれに対抗し、むしろ限られた世間で生きるより、何倍もの人生を知っていることを見せつけてくれる。自然体で気負わない彼の姿勢と相まって、ホーギーとはまた違った魅力を持つキャラとなっている。

ヒロインの女性警部補、デズもいい。黒人でドレッドヘアで、警察内部ですら信用できないという立場に置かれても、決して泣き言や言い訳を口にせず、事件に真正面から向き合う。
離婚で傷つき、仲間も持たず、奥深くに閉じ込めた、彼女すら気づかない彼女自身。ミッチはそれを見抜き、表に出そうと試みる。

ミステリーとしてもなかなか良い出来。意外な犯人、とまではいかないが、それぞれの登場人物の性格付けが綿密で、この辺りはさすがにハンドラーだと思わせる。
謎解きの面白さというより、小説の中の入り乱れた人間関係を追う楽しさと、少しずつ上塗りが剥がれて見えてくる、登場人物たちの姿に引きこまれていく。

ラストから察するに、これからは地域密着型ミステリーになっていくのかな。多数の映画が文中で紹介されるので、その辺りの楽しさも良いスパイス。
2人の今後にわくわくして、次作の出版が待ち遠しい。
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  by wordworm | 2007-01-09 12:41

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