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「クライマーズ・ハイ」

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横山秀夫著
「クライマーズ・ハイ」
文藝春秋 (2003/8/21)
ISBN-13: 978-4163220901


貸してくれた友人がこちらの方が面白いと言っていたので、あとにとっておいた。(猿並みの知恵)
そして私も彼女に賛成。「半落ち」も良かったが、こちらはさらに完成度が高いと思う。

地方紙で40年、部下をもたない遊軍記者として働く悠木。同僚の安西から誘われて難関とされる岩登りに挑む予定だったが、当日に御巣鷹山の日航機墜落事故が起こり、叶わなくなる。ところがその当日、安西は倒れて植物状態となっていた。
県内で発生した前代未聞の事故の全権デスクに任命され、社内で味わう数多の葛藤、息子との確執、そして安西が残した謎の言葉を巡って、悠木が苦悩する未曾有の一週間。

日航機事故は私も記憶にある。報道が流れるたび、悲惨、残酷、やり切れなさと、言葉にしきれない様々な負の感情が渦巻いた。ましてやこの事故を現場で追っていた記者達の目にしたもの・感じたものは、計り知れないものであったと思う。
著者に新聞記者の経歴があるのを知ってはいたが、正にこの日航機事故を記者時代に経験したとのこと。そう考えると、描かれた記者達の苦闘や社内の激しい軋轢など、ますます臨場感を増して眼前に迫ってくる。または彼のその当時の感動や後悔、自戒の念なども込められた、半自伝的なものとの側面もあるかもしれない。
そう勘繰らずにはいられないほど、描かれた内容は緻密で隙がなく、非常に深くて重い。渾身の、という言葉がふさわしい。

日航機事故と新聞社を過去編、そして17年後の岩登りへの再挑戦を現在編とした、二本柱の構成となっている。
事故取材のの渦中で悠木が味わう苦痛と涙、暗い過去を引きずる重圧感は、並大抵のものではない。彼がしかしその中で迷い悩み、時に間違えながらも貫こうとした新聞記者としての正義は、決して万人に背を向けさせるものではなかった。

安西が残した「下りるために登るんさ」という言葉。人生を山登りになぞらえることは良くあるが、この本もこの言葉の意味が解き明かされるまでの過程や悠木の戦いそのものを、岩登りのシーンと重ね合わせて語っているように感じられる。
同じ山に登っても、登山家ごとのドラマがあるように、人それぞれの人生という山の登り方がある。「心とか、気持ちとかが、人のすべてを司っているのだ」という一文が、読み終えた後も胸に残っている。

  by wordworm | 2006-01-30 07:30

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