「何はさておき」

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ナンシー関著
「何はさておき」
角川書店 (2005/12)
ISBN-13: 978-4041986127


消しゴム版画家&辛口コラムニスト、2002年6月、虚血性心不全で亡くなられた。享年39歳という早すぎる死だった。

「何はさておき」、ナンシーさんのコラムは週刊誌などで度々目にしていたものの、本を読んだのはこれが初めて。年末の日本で本屋巡りをしている時、ちょうど新刊コーナーにあったので、ああナンシーさんだ……と思わず手にとった。ページをめくると、懐かしい、彼女だけしか創りえない版画が幾つもおさめられていた。

ちょー当たり前のことだけど、画はデッサン力が必須。大多数のマンガ家さんは右向き人物画が得意で、左向きはそれよりちと難しくなる。
左向き顔のデッサンが崩れてないかをチェックする為に手っ取り早いのは、紙の裏側からすかして見てみれば良い。裏から見てもマトモな顔であれば○。中にはプロのマンガ家さんでも、一旦右向きで描いて、トレースして写して左向き顔に直しているというツワモノな方もいらっしゃる。
しかし版画の場合はどうなるか。はっきり言って、全てがこの”裏からすかす”状態。右向きだろーが左向きだろーがひらがなだろーがカタカナだろーが、全部逆に写るんだ。それもモノクロのシンプルすぎる世界、線のみで表現せねばならないというのは、簡単に見えて実は随分と過酷な事ではなかろうか。しかも彫刻刀じゃなくてカッターだよ。

ナンシーさんの画のすごさ。デッサンとかだけではなく、なんとも味のある、一本の線だけで正にその人物だとわからせる顔を作り上げ、それが押し付けがましい大作でないところに、また彼女のすごさがあるんだなあ。
TVが苦手で、芸能人などほんの一握りしか知らない私が読むのは失礼かと思ったが、そんな私でも「あ、この人!」と、ポンと膝を打たせるだけの力がある版画だ。

ナンシーさんの批評文は、素人と玄人批評家の中間にあられるような気がする。あの人スキーキラーイといった素人の感想は遥かに超えているものの、「彼のあの演技の裏にあるものは」といった、隅々までつついて分析するような玄人ものでもない。
そのくせ、その鋭い目は全く侮れず、ズバリズバリと辛辣にツッコむ彼女の文は非常に漢らしい。あくまで一視聴者としてのスタンスを決して崩さず、その視点から語ることが、彼女の文体と合わさって面白さを倍増させている。

ある方が弔辞で述べられていた通り、「取替えのきかない方」であったと改めて思う。
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  by wordworm | 2006-01-17 07:38

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