「国家の品格」

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藤原正彦著
「国家の品格」
新潮社 (2005/11)
ISBN-13: 978-4106101410


大学での講演記録に大幅に加筆したもの、となっている。
氏の長年のファンである私は、今回の日本行きで本屋に行った時、迷わずこの最新刊も手に取った。紀伊国屋で、その週の売り上げNO.1のコーナーに山積みされていた。

氏の今までの著作に比べて、かなり短時間で読み終えた。それは講演ということで随分と分かり易い語り言葉で綴られていたことに加えて、内容が今まで氏が何度も述べられていた持論だからである。
が、初めてこの本で氏の著作を読む人がいるとしたら、やや心配にならないでもない。明解ながらも極端な例が多く、一種の思想書かと思われかねない。今までの著作を順に追って読んでいれば、ここまで辿り着いた流れと背景がよく理解できるであろうし、氏の端正な文章を熟知していれば、これはあくまで講演なので、このような語り口と例を採用しているのだろうと解釈できるのだが。
ただご自分でも自覚されているように、侍数学者と呼ばれる猪突猛進型の方なので、私の考える枠を大きく踏み出しておられるのかもしれない。

主旨は非常に明解だ。欧米のような論理主義ではなく、世界に誇る日本古来よりの情緒と形、そして卑怯を憎み、惻隠の情を重んじる武士道精神を取り戻すこと。その為には何よりも幼少からの国語教育が大事であること。
”情緒と形”については、処女作である「若き数学者のアメリカ」から唱えられ、”卑怯を憎む心”はその後に続くエッセイで度々述べられ、”武士道”は「父の威厳 数学者の意地」でページを割いている。それが”国語の大切さ”としてまとめられたのが「古風堂々数学者」、教育論の形をとったのが続く「祖国とは国語」になるだろうか。
今回の本は、その論旨を国家という視点から説き直してあり、骨子は変わってはいないと思う。ただ置かれた重点が異なることで、かなり違った様相を呈している。

年長者には礼を尽くす。花や虫の音に季節を思う。謙遜と弱者へのいたわりを美とする。人生は有限であるという無常観が故に、儚い命を愛しむ。”もののあわれ”に対する感性の鋭さこそ、日本人が持つ世界へ誇るべきものだと説く。
様々な命を限りあるものとして大切にする心は、人へのいたわりと共感をも持ちうる。自然への畏怖心は、人力への驕りを失くす。それはすなわち平和を愛し、他人を尊重し、慢心からの卑怯な行為を憎むことに繋がっていくものだ。

国家というレベルで語られる氏の今回の提言、常より些か距離を置いて、藤原節を楽しみながら拝読した。
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  by wordworm | 2006-01-09 07:44

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