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「オーケストラの職人たち」

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岩城宏之著
「オーケストラの職人たち」
文藝春秋 (2002/02)
ISBN-13: 978-4163581002


学生時代の4年間、オケに入ってはいたものの、所詮素人軍団なので、プロのオケの運営がどうなっているかなんて知りもしない。ぼんやりとマネージャーがいて、宣伝担当の人がいて、ぐらいしか想像してなかった。
それでも、そういった仕事ならまだ話を聞く機会もあったかもしれないが、この本に書かれた”裏方さん”たちは、それより遥かに底辺でオケを支えてくれている人達だった。

最初は代表として、ステージマネージャーの方についての章。レッスン1。ここでざっくりとオーケストラの事務所構成と仕事内容についての紹介がある。
我々が一般に”裏方”として思い描くのは、きっとここまでなのだけど。

レッスン2からは楽器の運搬業の方、レッスン5ではオケに同行するお医者さん。こんな感じで写譜屋さん、チラシ屋さん、調律師さんと、私が存在すら知らなかった職業の方々の生の声と仕事の様子を、岩城さん自らが取材し、時には実際に体験もして、細かく文に綴っている。
こちらとしては全く未知の世界のことなので、テンポ良く軽快な文で描かれた内容は、隅から隅まで面白く。仕事内容だけでなく、取材された人自身の人柄や言葉など、岩城さんらしい温かさが端々から滲んでいる。

ちょっと異色なものとしては、レッスン8の「クラシックを定義する」。ある雑誌に投稿された「クラシック音楽って何?」という投書に対し、岩城さんが悩んだ末に文章で答えているもの。
この投書の中にある、「西洋の真似事」「日本人としての個性を」「自分たちが高級な人種であるかのような錯覚」という批判。岩城さんは音楽史を紐解くところから始め、世界で活躍中の日本人演奏家を挙げ、ジャズやサッカーなどの異業種も例として取り、これに反論する。
この章の最後にある言葉が胸に残る。

「クラシック嫌いの人は、理屈をこねないで、大らかに『嫌いだ』と言ってほしい。音楽や絵画に『わかる』『わからない』という言葉を使う人種は、世界で日本人だけである」

父がブック○フで見つけては送ってくれた岩城さんの本も、手持ち分はこれで打ち止め。もう新刊が読めないかと思うと、寂しくって仕方がない。これからは今までの本を、読み返して読み返していくんだなあ。
父上様、もし万一また未買本を見つけたら、ぜひよろしくお願いします。105円以上の本でも構いませんので。

  by wordworm | 2007-01-28 12:16

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