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「ロシアは今日も荒れ模様」

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米原万里著
「ロシアは今日も荒れ模様」
講談社 (2001/02)
ISBN-13: 978-4062730808


ロシア語通訳の米原さんが、あちらこちらにロシアについて書かれたエッセイをまとめたのが本書。ジョークから政治問題まで、幅広くロシアを知ることができる内容になっている。

遠いような近いような国、ロシア。彼の国を思い浮かべた時、怒りから興味から無関心まで、抱く気持ちは人様々だろう。私はというと、実はほんの表面的なことを少々知っているだけの情けなさ。本書はそんな私に、ロシアのみならず、東・中欧についてもっと知りたいと明るく思わせてくれる本だ。

米国と並んで二大巨国となっていた旧・ソ連邦。最後の書記長であったゴルバチョフ氏について、ずっと不透明な気持ちを持っていた。
彼の業績は素晴しいものに思えるのに、なぜ自国からあれほどまでに嫌われてしまったのか。そのくせ日本のみがその後もやたらと持ち上げているようなところも目について、不快感と割り切れなさを抱きつつ、しかし特に調べたりはしなかった(恥)
この本の中で米原さんは、今まで出会った著名なロシア人数人について、直接出会った経験も含めた彼らの像を描き出しているが、その中のフゴルバチョフのページから、初めて一つの答えをもらった。ああそういうことか、と納得した直後に感じたのは、しみじみとした悲哀だった。

そんなシリアス箇所も適度に盛り込みつつ、しかし全編笑いどころ満載の、非常に楽しいエッセイである。
ロシアの人は、あの凍てつく気候から想像しがちな暗さをあっさりと裏切って、非常にジョーク好きな暖かい人達と聞いていた。悪いのは首脳部であって、国民は皆素朴でお人好しばかりだ、と耳にしていた。
米原さんの筆は、そんな国民性を生き生きと描写する。激動につぐ激動、深刻な生活不安の中で、それでも彼らはあえて笑う。民主化の波になかなかついていけなくて、でもその混乱さえもジョークのネタにする。
何も考えずにひたすら笑わせてもらった後で、ふとした拍子に真剣な素顔がのぞくのだ。

米原さんは、日本の政治家達に関しての痛烈な批判も良く書かれているが、この本でもロシアを擁護しながら、日本に対してちらちらと棘を見せている。
日本を母国として愛しながら、同時に彼の国をも暖かく見守る彼女のまなざしは、鋭くもまたとても優しい。

  by wordworm | 2007-02-04 12:45

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