「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」

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米原万里著
「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」
角川書店 (2001/07)
ISBN-13: 978-4048836814


米原さんが、少女期の約5年間を過ごしたチェコのプラハ。ここで通われていたのが在プラハ・ソビエト学校で、当時、50カ国もの国籍の生徒が通っていたそうだ。
米原さんの著作ではたびたびこの学校についてふれられているが、その頃の学校生活について詳細を知ることができるのがこの本である。
ここで出会った友人のうち、3人。30年たってから彼女達を探し出して再会を果たす。

東欧には馴染みがない。情けないことに知識もない。米原さんの本を読むようになって、ようやくロシアを始めとする国々の輪郭がぼんやりと見えてきたところだったのだが、この本はそんな状態の私を、一足飛びに戦地に連れて来たような。そんな現実を、衝撃を伴って突きつける。

再会する3人、それぞれの背景を持つ。
ギリシャ人のリッツァ。ギリシャ共産党代表の父について、プラハに来た。奔放で早熟で勉強が大嫌い。
ルーマニア人のアーニャ。チャウシェスク政権下の幹部と思われる両親。熱狂的な愛国者であり、過度の虚言癖の持ち主。
ユーゴスラビア人のヤースナ。父はユーゴ連邦の公使。成績抜群で素晴しい画才を持ち、常に冷静沈着。
ソビエト学校で過ごした少女期。共に過ごした沢山のエピソード。その後で、30年後の現実の姿と対比する。

彼女達を探す旅の過程からして、一行たりとも逃したくないと思わされるほどの内容が詰め込まれている。記憶を手がかりに懸命に探す米原さんに、次から次へと思いがけない情報が襲いかかる。
今なお激動の時代の只中にいる東欧諸国で、人一人の運命がどれほど軽く狂わせられるものなのか。人種、国籍、家族歴、居住地。ありとあらゆる要素が原因となって、思いもかけない場所に放り込まれる。
日本人という国民は、愛国心という言葉が嫌いな人が多いらしいが、そんな個人の好き嫌いの感情など入り込む余地もなく。ただいきなりその国を、人種を背負わされ、翻弄され続ける人達の思いがここにある。

米原さんの著作は、学術論から爆笑エッセイまでという幅の広さだが、この本は紀行文でありドキュメンタリーであり、他の本と違い、ユーモアは一切排除されている。
しかしとにかく素晴しい。語彙に乏しく表現し切れない自分が悲しいが、見事というほかない作品だ。読みながら何度も鳥肌が立った。

この本で米原さんは、第33回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。そのような結果を辿ってでも良いから、出来るだけ多くの人に読んでほしい。
忘れることのできない一冊だ。
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  by wordworm | 2007-02-07 14:34

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