「手紙」

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東野圭吾著
「手紙」
文藝春秋 (2006/10)
ISBN-10: 4167110113


友人から借りた本。人気の東野さんなれど、不勉強な私はこの本が初めて。

両親に先立たれ、兄弟だけで生きてきた剛志と直貴。生活の苦しさから強盗殺人を犯してしまった兄・剛志は、獄中から月に一度、直貴に手紙を送る。
大学進学を諦め、働き出した直貴だが、うまくいくかと思うたびに”強盗殺人犯の弟”という事実が立ちはだかるという現実に翻弄される。兄から届く手紙は、彼にとっては苦痛以外の何物でもなかった。

この本はあちこちのミステリー賞を受賞したとのことだが、個人的にミステリーという感じはしない。謎解きや犯人探しという筋ではなく、直貴の生活と苛酷な現実を、淡白とも思えるほどの乾いた筆致で書いている小説だ。
淡々と流れていく月日を書いているだけなのに、その内容の厳しさに、じわじわと真綿で首を絞められていくような息苦しさを覚えていく。

自分の大学進学費用の為に思いつめた兄の犯行。故に耐えねばならないと思うのに、忍耐力の限界を越えて、これでもかとばかりに畳み掛ける、世間という現実。偏見、差別、言い方は色々あるけれど、改めて日本という国の実情を思い知らされる。
次々と寄せてくる不幸の連続に、ページをめくる手が震えてくる。またか、またなのかと、何回も突き刺される針が悲しくて痛くてたまらない。
フィクションとわかっててさえ、これほどつらいものを、ましてやこういう背景を持つ現実の人にとっては、どれほどの痛みと苦しみか。

この本をミステリーと呼ぶとすれば、この兄弟の出口をどこととらえるか、というところがそれか、と思う。
どうすればこの現実から逃れられるか、誰か救世主となりうるのか。そんなことを考え考え読み進む後半に、著者の示す一つの形が見えてくる。
それはこちらの思惑に対し、全く別角度に光を当てる。だが決して奇策でも意外でもないそれは、ただ直面しなければならない、確かにそこにずっと在った、もう一つの現実なのだ。

友人はこの本を読んで、涙が止まらなかったと言う。
最後の最後まで行き着いた後に、まぎれもなく溢れるものがある。それは涙とも喜びとも悲しみとも、また感動とも名付けられるものであるだろう。
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  by wordworm | 2007-03-02 14:28

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