「死を求める人びと」

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ベルト・カイゼル著、畔上司訳
「死を求める人びと」
角川春樹事務所 (1998/05)
ISBN-10: 489456131X


安楽死。治療不可とされた患者の救済の為、医師などが死に至らしめること。
多くの国では犯罪とされるが、世界で極少数、安楽死が法的に認められている国がある。この本はその国の一つ、オランダから、正にその安楽死を担当する医師が綴った、現場での記録だ。

患者の病気を治すことを使命とするところの医者という存在が、死へ至る道案内をするとは、どういう感情のせめぎ合いがあるのか。それは激情か、諦観か。また患者と家族はどうなのか。
そんなことを考えて手にとった本だが、書かれていたのは、予想外に静かな光景と心情風景だった。大学で哲学を学んだ後、医学を修めたという著者ならではの筆であるからかもしれない。

死を選ぶに至る道筋は色々ある。安易な尊厳死を招く事態を怖れて、各国では法制化されていない行為。それを認めた国での手続きは幾重にも層を作り、それでもまだ関係者全てが納得する結果を生み出すには難しい。消化するのが一番困難とされる、”第二者の死”であれば尚更だ。

この本には末期ガンからパーキンソン病、エイズなどの病を抱える患者が、著者が勤める療養院に入院してきてからの病状の進行、周囲の変化、本人の意思の表現など、医者としての立場からに限られてはいるものの、角度を変えて淡々と記録を続ける。それは患者が最終的に死を選び、息を止めたその身体が土に埋められるまでも。
嘆きも慟哭も恐怖も、数え切れないほど存在したはずなのだろうが、消毒薬の沁みた布でぬぐったかのごとく、言葉の形にはされていない。しかし白い冷たい不透明な膜の向こうに、どれほどそれらが渦巻いていることか、想像するに難くないような気はするけれど。
合間合間に挟まれる、同僚の医者達との会話、他の医師のエピソード。乾いたユーモアさえ滲ませる、そんな話の端々にまで、影が染みついて離れない。

インタビューで、「安楽死を伝道するつもりはない。私の仕事は、あくまで死を迎える人達のケアをすることだ」と語ったカイゼル氏。自身が内面に深い哲学を持っていないと続けられる仕事ではない、ということを、この本で学ぶことができる。
が、具体的なそれは氏が声高に主張することではなく、ただ記録として残していく中から、こちらが掬い取るべきものと思う。
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  by wordworm | 2007-03-05 15:02

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