「千尋(ちいろ)の闇(上・下)」

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ロバート・ゴダード著、幸田敦子訳
「千尋(ちいろ)の闇(上下)」
東京創元社 (1996/10)
ISBN-10: 448829801X


以前に読んだ初めてのゴダール作品が、世評では余り好評ではなかったので、特にお薦めとされる本書を読んでみた。

時は1977年の春。暗い過去を持つ歴史教師のマーチンは、友人からの誘いにより、ポルトガル領マデイラへ出向く。そこで出会った友人の後援者なる実業家から、半世紀も前のある政治家についての話を聞かされる。英国の大臣職にまでついたかの政治家は、なぜか突然の婚約破棄、そして失脚という末路を辿った。
彼自身の手による手記を渡されたマーチンは、実業家の依頼により、彼に何が起こったのかをつきとめる作業にかかるが。

これはゴダールのデビュー作にあたり、そのせいか筆に勢いと若さがある。前回読んだ本に比べ、やや粗い面もある。
しかしこの筋立てと背景の緻密さは一体何だろう。ただ新人の勢いのまま書き連ねては、こうはなるまい。相当な構成力と思う。

これは1977年のマーチンの現在と、1900年代初めのストラフォードの手記とが、交互に入れ替わる構成になっている。
それだけで場面ががらっと変わるのに、更にそれぞれの時代の登場人物の思惑が入り乱れて複雑怪奇に絡み合い、あの人はどうか、この人の真意は、などと、読者側も散々に振り回される。
しかしそれが醍醐味、と言い切れるほどの娯楽性。並のミステリー以上にミステリーで、平凡なドラマより余程劇的で、とにかくページから目が離せない。離したら、気を抜いたら、そのままわからないところに置いてきぼりにされそうなほど、鮮やかに二転三転を繰り返す。

これが処女作であるなら、この後多くのファンを獲得したのが良くわかる出来。この構成力のまま、文が洗練されていったならばさぞかし、と思うのだけど、重ねて言うが、巷のファンの間ではそういう評判ではないらしい。
まあそれも自分の目で確かめるべきことなので、また別な作品に手を出してみようと思う。
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  by wordworm | 2007-05-03 09:24

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