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読書記録:2012年5~6月

蜘蛛の巣 死をもちて赦されん フィデルマの叡智

ピーター・トレメイン 「死をもちて赦されん」
            「蜘蛛の巣」(上・下)
            「修道女フィデルマの叡智」


ずっと読んでみたかった、修道女フィデルマのシリーズ。1冊買ったら面白くて、次々と手を出してしまって、いかんいかん。(自重)
七世紀のアイルランドを舞台としている歴史ミステリーなのだけど、事件の謎解きだけでなく、キリスト教がローマ派が主流になるか、アイルランドの教義を守っていくか等の宗教史の側面もあり、読み物として十分に面白い。
著者は、ケルト文化で著名な学者だそうだが、専門知識の豊かさが、これほど物語を面白くするのだ、ということを改めて教えられたシリーズ。


蔵書まるごと

イアン・サンソム 「蔵書まるごと消失事件」

ダメダメ青年がようやく得た職が、片田舎の図書館の司書。
コージーだし図書館だし、と設定は良かったのだけど、ダメダメっぷりが些か鼻につくというか、そこまでいくと哀れで辛いというか。
温かな終わり方に救われたけれど、2作目を読むかどうかはギモン。


剣姫

クリスティン・カショア 「剣姫-グレイスリング-」

女の子が主人公のファンタジーで、ちょっと怪傑ゾロっぽい要素もあったりして。
賜(たまもの)と呼ばれる特殊な才能を持つ人々がいる世界なのだけど、その一芸が役に立つものかどうかによって、その後の人生が大きく変わる。
カーツァ姫の成長物語、恋物語、国取り合戦と、王道を揃えてて、各文学賞の受賞暦もすごい。
面白かったけど、ハマったというほどでもなく。


古書の来歴

ジェラルディン・ブルックス 「古書の来歴」(上・下)

以前にマミィさんから教わった本で、文庫になるのをずっと待ってたの。
勝手にミステリーかと思ってたら、や、ミステリーではあるのだけど、こういう形の話とは思ってなくて。
どの章もすごく面白くて、ページをめくる手が止まらないまま。
どんなものにも、どんな人にも、語り尽くせない物語がある。


金星特急6

嬉野君 「金星特急」6

大好きラノベの6巻。
嬉野さんは、ハードな描写がすごく上手くて、ラブシーンも硬めの言葉の羅列なのに、どうしてこれだけ、胸がしめつけられるような切なさが表現できるのか、としみじみ思う。
連載されている雑誌では、いよいよ次回が最終回。

*-*-*-*-*-*-*-*-*

マンガの新作。

西炯子 「姉の結婚」1・2
大高忍 「マギ」1
池田乾 「戦うセバスチャン」1

「姉の結婚」は、今のところ良し。
こおゆう、性描写ありのマンガを、娘と一緒に読んでいる点で、なんか遠い目になっちゃった。

「マギ」は、1巻だけでは、まだなんとも。3巻以降から物語が動いていくらしいのだけど、1巻を読んだ限りでは、2巻を買う気力はまだ沸かず。
なんで最近の少年マンガって、ダンジョンとか武器とかHPとか、ゲーム系ばかりなのだ……

「セバスチャン」は、そのままブック○フ行きです。(酷)


続き物は、

獣木野生 「パーム」35

ずっとずっと大好きなマンガ。
そろそろ終わりなのだけど、待ち遠しいやら、その日が来てほしくないやら。
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  by wordworm | 2012-07-16 09:56

読書記録:2012年2月

ミレニアム3

スティーグ・ラーソン 「ミレニアム3:眠れる女と狂卓の騎士」(上・下)

三部作のラスト。1・2巻から引き続き、ジェットコースターのような展開と、人間模様の綾も鮮やかで、最後の最後まで、息つく暇もなく読み通した。
本当は十部作の予定であったとのこと、作者の急逝がつくづく惜しまれる。


金星特急5

嬉野君 「金星特急」5

ライトノベルと侮るべからず。実はアマチュア時代から嬉野さんのファンで、デビューされた時は歓声を上げたものだった。
未来ファンタジーなのだけど、各国をバックパッカーとして巡ったという作者の知識と経験が設定に生かされて、臨場感溢れる世界を作り上げている。
続きがー、続きがーーーー。


深煎りロースト

クレオ・コイル 「深煎りローストはやけどのもと」

コーヒーショップを舞台にしたこのコージーも、とうとう9巻目。
すごく面白いというわけではないのだけど、ほのぼの・軽めに進行する中に、その軽さに良く合うレベルの謎解きが用意されている。あ、けなしてるわけではありません。
コーヒードリンクについての雑学が得られるのが好き。お菓子や料理のレシピも付いているのだが、大変アメリカーンなので作らない……


夏の夜の悪い夢

ジェイニー・ボライソー 「夏の夜のわるい夢」

こちらも同様、コージーの6巻目。
が、なかなか本格派であるのと、舞台であるイギリスのコーンウォール地方の情景描写が好きで、お気に入りのシリーズ。
主人公の、じりじりした恋の行方も楽しみで。


今をたよりに

ジル・チャーチル 「今をたよりに」

ジル・チャーチルは大好きで、このシリーズも最初は面白かったのだけど、今作にはちょっとがっかりかも。
ミステリーがミステリーになっていないというか、どたばた騒ぎで終わってしまっている。


感謝祭の勇敢な七面鳥

レスリー・メイヤー 「感謝祭の勇敢な七面鳥」

主婦探偵シリーズで、巻を重ねるごとに年月も経っているので、子供達が大きくなっていく様子も読むことができるのが、秘かな楽しみ。
大学に進学した長男の話に興味津々で、せっかくの謎解きをきちんと楽しみませんでした、ごめんなさい。


コージー作家の秘密の原稿

G.M.マリエット 「コージー作家の秘密の原稿」

コージー好きな私に、このタイトルを出されたら、そらあ買うでしょう。だけど中身は、コージーよりはぐっとシリアスかも。
これもシリーズだそうなので、次作が楽しみ。


ピザマンの事件簿2

L.T.フォークス 「ピザマンの事件簿2:犯人捜しはつらいよ」

作者が居住地以外は謎、というシリーズだけど、まあそれはどうでもいい。(おい)
レッドネックのおじさん達が頑張るのだけど、テンポの良い展開が小気味良い。なんというか、アメリカの青春物語のおじさん版みたいな。


暗い鏡の中に

ヘレン・マクロイ 「暗い鏡の中に」

書かれたのが1950年なので、古さはあるのだけど、幻想と殺人と心理を巧みに組み合わせたストーリーが見事。
ミステリーとしては単純なのだが、筆の細かさがそれを補ってる。


山田風太郎 「八犬傳」(上・下)

友人に借りた本。
NHKの「南総里見八犬伝」が大好きだったということで、彼女と興味が一致した私に、お薦めとして貸してくれたもの。読みながら、当時の主題歌がぐるぐる頭の中を巡る、巡る。
と言いつつ、八犬伝の現代語訳なわけではなく、作者の馬琴の生涯と画家の北斎との交流をもう一つの軸とした小説になっていて、一冊で二度美味しい本。

*-*-*-*-*-*-*-*-*

友人から借りたマンガも。

岡野玲子 「陰陽師」(全13巻)

  〃    「コーリング」(全3巻)

うーん、岡野玲子さんは色々と好きではあるのだが、やっぱりわかりにくいし、物足りない。
絵や傾向は好みでありながら、作品としてはそれほど面白味が、というか。(悩)
ちなみに「コーリング」の原作は、昔から大好きなファンタジー
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  by wordworm | 2012-03-03 08:07

一覧、など

半年近い間をあけてしまって、もうどうしたらいいやら。
驚愕、ため息、自己嫌悪。
の果てに、開き直り、ときたもんだ。

ということで、とりあえずこの数ヶ月に読んだ主な本、タイトルのみの列挙。

* * * * *

ファンタジー

フィリップ・プルマン 「ライラの冒険 黄金の羅針盤」(上・下)
デイヴィッド・エディングス 「エレニア記」全6巻
     〃        「タムール記」全6巻
バリー・ヒューガート 「鳥姫伝」


SF

フィリップ・リーヴ 「略奪都市の黄金」


海外ミステリー

ローラ・ダラム 「ウエディング・プランナーは眠れない」
ローラ・チャイルズ 「グリーン・ティーは裏切らない」
ジャネット・イヴァノヴィッチ 「気分はフル回転!」
ヘレン・マクロイ 「家蠅とカナリア」
コリン・ホルト・ソーヤー 「殺しはノンカロリー」
アンドリュー・テイラー 「天使の鬱屈」
アーロン・エルキンズ 「水底の骨」
エリザベス・ピーターズ 「リチャード三世『殺人』事件」
    〃       「ベストセラー『殺人』事件」
    〃       「ロマンス作家『殺人』事件」
キャロライン・ヘインズ 「ダリアハウスの陽気な幽霊」
リース・ボウエン 「口は災い」
パトリシア・コーンウェル 「捜査官ガラーノ」
デイヴィッド・ハンドラー 「芸術家の奇館」
ジョアン・フルーク 「チェリー・チーズケーキが演じている」
レスリー・メイヤー 「メールオーダーはできません」
ジル・チャーチル 「愛は売るもの」


時代劇

池波正太郎 「鬼平犯科帳」(2)
畠中恵 「おまけのこ」


エッセイ

江国香織 「日のあたる白い壁」
壇ふみ・阿川佐和子 「太ったんでないのッ!?」
大江健三郎 「『話して考える』と『書いて考える』」
  〃   「暴力に逆らって書く」
  〃   「あいまいな日本の私」
  〃   「日本の『私』からの手紙」
  〃   「『自分の木』の下で」
米原万里 「愛の法則」
岸恵子 「ベラルーシの林檎」
長野智子 「デリシャスな結婚」


ノンフィクション
 
奥田昭則 「五嶋節物語 母と神童」


対談

小澤征爾・大江健三郎 「同じ年に生まれて」
阿川佐和子 「会えばなるほど」
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  by wordworm | 2008-04-01 03:53

「アルスラーン戦記」第一部

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田中芳樹著
「アルスラーン戦記」(1)~(7)
角川書店

「銀河英雄伝」、そして遅筆で有名な(…)田中氏の、別な代表作。現在もまだ続刊中。

その武力と文化で大陸に名高い、国王アンドラゴス3世が治めるパルス王国。しかし宗教国家ルシタニアの奇抜な侵攻に破れ、王は捕虜に、国は一日で滅亡した。
生き残った王太子アルスラーンは、策士ナルサス、武将ダリューンらの少数精鋭の仲間を率いて、故国の奪還と再興を目指す。

架空世界が舞台のファンタジー、王に女王に騎士団、剣、少年の成長物語と、私の好きな要素がてんこ盛り。これで面白くないはずがない。
田中氏らしい冗漫な部分も少々見られたが、そういうお遊びも何の問題もないほどに、物語は面白要素満載のまま突き進む。

主人公のアルスラーンは、全くもって素直で真っ直ぐなのに、取り巻く周囲のキャラが、これでもか!というぐらいにクセ者ぞろいなんである。特に参謀ナルサスなど、銀英伝で私の一番のひいきキャラであったヤンと共通する部分がかなりあって、やはり戦国モノには知性派は欠かせない(関係ない)
戦闘シーンではやや残酷部分もあるものの、よほど繊細でない限り、その手の描写も必要と思う。戦争はキレイ事の真対照にあるものだからね。

パルス王国の復興を成し遂げる為には、まずは良い国王を擁くことが必須であり。アルスラーンのような無垢に近い若者が、一体どれだけ、そのむごく辛い役目を背負っていけるのか、と不安を持つ向きが大半なのに、彼はその良さを失うことなく、着実に王者としての成長のステップを登っていく。それは周囲の支えがあるのは勿論だが、何よりも彼の真の力量。その特質がとても良い。

一部を終えたところで、しかしまだアルスラーンは成長途上。二部に入って、どこまでいけるか、どれだけの試練が待っているか。
二部も7巻で終えると明言されているだけに、作者の見ているゴールを、読者としても過程を楽しみつつ、共に到着を目指したい。
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  by wordworm | 2007-10-09 08:18

「ねこのばば」

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畠中恵著
「ねこのばば」
新潮社 (2006/11)
ISBN-10: 4101461236

読書記録で、どこに分類したらいいか未だにわかってない「しゃばけ」シリーズ。待望の文庫化、第3弾。

相変わらず、「せっせと間を置かずに、死にかかる」若だんなを中心に(…)、今回は全部で5編の短編を収録。
若だんなと妖怪たちの不思議な人情推理帖、とは良く言ったもので、今作も様々なミステリー@妖怪絡みと、冴える若だんなの推理。脇役達も健在で、思わず「また会えたね!」と喜んで声をかけたくなる。相手は妖怪だけど。

しかしいつもと少々赴きが違うのは、前2作よりやや怖目の色合い。ホラー色のものがあったり、心理的にぞっとするものが描かれていたり。
推理物という側面を持つ以上、扱う題材は”犯罪”であるので、ある意味、避けて通れない要素ではあるのだけど、今までのこのシリーズでは、そういう要素が揃いすぎているわりには(だって妖怪モノだよ)、全編に渡って漂うほのぼのムードが救いとなって、背筋を寒くするようなことはなかったのだな。

でも例えば「茶巾たまご」の最後に明かされる、犯人の言葉。
「産土」の、暗闇にひっそりと少しずつ引きずり込まれていくような恐怖感。
さすがの畠中さんのほのぼの文章でも、ぞっとする気持ちは抑えられず。でもそんなところが、このシリーズも良いペースで描きこまれてきているのだなあ、とかえって嬉しくもなってしまう。

次作の文庫化、文庫化。一刻も早くお願いします。ハードカバーは許して下さい……
あ、でも畠中さんが出し始めた別シリーズは読んでみたいかも。
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  by wordworm | 2007-08-11 08:26

「海より生まれし娘」(上・下)

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ダイアナ・マーセラス著、関口幸男訳
「海より生まれし娘」(上下)
早川書房
ISBN-13: 978-4150204044
ISBN-13: 978-4150203399


「シャーリアの魔女」シリーズの第一部。

アレマニの地で隆盛を誇っていた、シャーリアの魔女一族。アレマニ人は疫病や誘拐事件を理由に大規模な魔女狩りを行い、以降シャーリアの魔女は滅亡したとされている。
それから3世紀、ヤーヴァンネットに住む19歳のブライアリーは、魔女であることをひた隠しにし、治療師としてひっそりと生きていた。しかしある日、一人の船長に正体を暴かれそうになり、しかもヤーヴァンネットを治める伯爵の前で、少年の治療の為に魔法を使わざるをえなくなる。
魔女として裁判にかけられることになったブライアリーは、遠くの地へ運ばれるが。

設定も細かく、立派な架空世界を創り上げていると思うし、登場人物も魅力的なのだけど、なぜかそれほどのめりこめなかったファンタジー。はて。なぜ。

一つには、訳文のせいかもしれないが、今ひとつ意味が通じにくい部分が多かったこと。様々な国と諸侯が入り混じるストーリーであり、場面も2冊の中で刻々と変わっていくのだけど、追いかけながら疑問符が浮かぶことが数回あって。原文はどうなっているんかな。
二つ目は、性的な描写が幾つかあり、露骨ではなくとも、なぜか受け入れにくい場面であったりしたことか。私はゴーモンもゴーカンも苦手で、特に後者は吐き気がするぐらい嫌いなので(ま、オンナですから)、その手の匂いがしたことが理由かと。

しかしそういう点を差し引いても、良くできたストーリーではあると思う。
遠い昔の魔女狩りという歴史を背負い、隠れて生きなければならない魔女のブライアリー。意識しない以上に孤独な彼女が、<常磐灯>と日誌のみを頼りにする彼女が、それでも失くすことのない勇気と優しさに心うたれる。
それは伯爵のメルファーランも同様であったようで、妻ある身でありながらブライアリーと惹かれ合い、今後の話も彼らの恋愛が大きな軸となっていく模様。

ブライアリーが探し求めていた”娘”のメガン。どうやら魔女は、「四大」と呼ばれる精霊にそれぞれ属し、各々の特質を持つらしい。”海”のブライアリー、”火”のメガンと揃い、今後はあと2人加わるのか。
メルファーランが苦悩する政治界の混沌は、どう収まるのか。
ウィッチメアーで出会った火蜥蜴の役割は。
下巻の最後になって、これだけのものがようやく姿を見せた段階だ。

三部作と銘うたれているが、どうやら三部目で終わらないという情報も。
のめりこむものではないにせよ、ブライアリーのこれからが知りたくて、きっと続きに手を出す予感。
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  by wordworm | 2007-01-20 09:38

魔術師ベルガラスシリーズ全3巻・女魔術師ポルガラシリーズ全3巻


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ディヴィッド&リー・エディングス著、宇佐川晶子訳
魔術師ベルガラスシリーズ
  「銀狼の花嫁」「魔術師の娘」「王座の血脈
女魔術師ポルガラシリーズ
  「運命の姉妹」「貴婦人の薔薇」「純白の梟
早川書房 (2005/12)

「ベルガリアード物語」(全5巻)のサイドストーリー。

「ベルガリアード」で、主人公のガリオンを常に支える存在のベルガラスと、彼の娘のポルガラ。遥か昔、神々の戦いが始まる前より語りは始まる。神々の時代からガリオンの誕生まで、なんと約7千年分の前史の物語だ。
それを壮大な力を持ちながらも自己顕示欲が非常に強く、酒に目がないベルガラスと、常に棘と皮肉を忘れないポルガラの視点から描くのだから、通り一遍の歴史語りで済むはずもない。

ベルアリアード自体、かなりの長編で、登場人物も国も結構な数で、あれ、これは誰の国だっけ、と地図や解説で確認することが何回もあり(私だけか)。同時に、そこまでして読み進めても、どこか理解し切っていないという感じがぬぐいきれず、結局5回ぐらい読み返す羽目になった。
しかしそれより早く、こちらの前史を読めばよかったかと、6冊読み終えた後でしみじみ思う。ベルガリアードを補足して余りある内容が詰め込まれている。

元より、ある物語を視点を変えた形で読むのは好きだ。1本読んだ時にあれやこれやと想像する、それにまかせるのも楽しいけれど、より深くその世界に入って理解できる。それが最初に想像した通りであれば、また好みの語り口であれば尚更だ。
この前史6冊は、ベルガリアードだけでは知りえなかった新しい事実を多数加え、またベルガラスとポルガラを取り巻く登場人物達を、一段と魅力的に描いていて、ベルガリアードを数倍厚味のあるものとしている。
こういうことだったのか、という驚きと、こんな感情が裏にあったのか、という納得と。随分と知ったような気でいたものを、改めて別な側面を見せてもらえるというのは、今シリーズに関しては大当たりに楽しいものだった。

加えるならば、ベルガリアードはディヴィッド単独の書とされていたが、このシリーズから、実は妻であるリーとの共著であることを公言している。だからこそ、と思える女性キャラの描写の細やかさにまた納得。
何回読んでも新しい楽しみが見つかるというのは、実はなまじな長編では成しえない業である。読み終えて感想を書いた本は”読了”棚にしまうのだが、このシリーズに限っては、まだ”未読”の棚に置かれている。

 
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  by wordworm | 2006-11-30 06:35

「ぬしさまへ」

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畠中恵著
「ぬしさまへ」
新潮社 (2005/11/26)
ISBN-13: 978-4101461229


「しゃばけ」に続く2作目は短編集。

今日も今日とて変わりなく病気の(…)若だんな、一太郎。1作目で、常に妖怪にかしずかれる彼の生活ぶりと、見事な推理力を披露したが、2作目では6編の短編を通して、更なる鋭さと優しさ、妖怪たちの意外な面などがうかがえて、どれも非常に楽しい出来となっている。
腹違いの兄・松之助のつらい境遇や、苦境に立たされた幼馴染、お付の仁吉の恋噺。どれもほんわりとしたムードでありながら、じわりと沁みる切なさで、思わず涙を誘われる。

江戸を舞台にしているが、時代劇のような荒々しさはない。妖怪が数多出てくるのに、ホラーの不気味さは皆無。ミステリーでもあり、人情物でもあり。
世に沢山ある時代劇というジャンルの中で、見事に独自路線を築いた作品と感服する。いや、それともミステリージャンルに入るのか?

傍から見れば、体こそ弱いものの、他には何一つ不自由なく映る一太郎。しかし大店の跡継ぎとして、これで果たしてつとまるのかという焦りは常にあり、それが彼がただの坊ちゃんになるのを食い止める。人の機微を読む上手さと、逆にそういう育ちだからこそ持ちえたのかもしれぬ懐の深さを併せ持つ、彼の心の強さは人一倍だ。
それでもまだ足りないと、悩み俯く彼の姿が垣間見られる。
(私は本当に、もっと大人になりたい。凄いばかりのことは出来ずとも、せめて誰かの心の声を聞き逃さないように)
こんな思いも、外にこぼせば皆を心配させると、心の中で噛み締める。

笑って泣いて驚いて。時代物の魅力は多々あるが、こんなに柔らかく全てを味わえる小説はなかなかない。柴田ゆう氏の挿絵が、また良い味を加えている。
続刊も数冊出ていてぜひ読みたいのだが、まだ文庫化されていないので手を出せない(涙)(ああ日本の図書館が恋しい)
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  by wordworm | 2006-11-20 07:05

「魔法使いとリリス」

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シャロン・シン著、中野善夫訳
「魔法使いとリリス」
早川書房 (2003/12)
ISBN-13: 978-4150203511


大人向けの御伽話という感じのファンタジー。

魔法使いとして非常に有望な資質を持つ青年、オーブリイ。今持っている技に加えて、変身術を身につけたくて、名人と言われる魔法使い・グライレンドンに弟子入りした。しかし彼の館の住人は、グライレンドンの妻・リリスを始めとして、どこか奇妙な存在ばかり。そんなリリスに、オーブリイは日々惹かれていく。そしてリリス達が持つ、大きな秘密の存在に気づく。

ストーリーとしては単純でシンプルなのだけど、全編を通じて漂う切ない雰囲気がとても良い。目線や指の動き一つの描写にまで、情緒が溢れている。優しさや哀しさ、恐怖、欲望といった感情が、ゆっくりと肌に沁み込むように、確実に全身に届くのだ。

リリスには感情がない。だから”愛”というものが理解できない。オーブリイの気持ちに応える言葉に、大事な鍵が隠れている。そして周りの住人と、グライレンドンの態度にも。

魔法が使えたら、と願ったことのない人はいないと思う。しかし実際その力を手にしたとして、健全な意志の下に使えるか。本質にあるものをつかめるか。
変身術とは、正にその対象の本質を理解していないと成せないものだ。体中の成分の一つ一つを、元素レベルに至るまで変化させていく。そして完全に変身を成し遂げた後には、心までそのものに変わる可能性が待っている。元は自分は何であったか、忘れてしまうかもしれないのだ。
元の自分を完全に忘れて、生まれ変わったように別な存在になることを、また願う人も多いだろう。しかしそれが自分の意に染まない場合、どれほど残酷なものであることか。
その残酷さが変身術を身につけたオーブリイに、邪悪な魔法使いに立ち向かう勇気の引き金を引かせることになる。

たとえ体は変わっても、持って生まれた本能は根強いものだ。その声に逆らい続けることを良しとはしない。
この世界には、その身体と心が在るべき場所がある。その場所から無理矢理離すことは、世界に歪みを与えることになる。
もしその対象に、ほんのわずかでも愛を感じるなら、そんな残酷な行為に踏み切ることができるか。できる場合は、それは果たして愛であるか、という問いかけが続くのだ。

切ない物語の終わりに用意された、温かいエピローグ。
これはある人々を描いた物語だが、確かにその背景には自然という世界がある。無慈悲なようで、実は何よりも王道な。私達もそんな世界に包まれていることを、改めて感じさせてくれる一冊だ。
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  by wordworm | 2006-10-25 04:14

「ベルガリアード物語」全5巻

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ディヴィッド・エディングス著、宇佐川晶子・佐藤ひろみ・柿沼瑛子訳
「予言の守護者」
「蛇神の女王」
「竜神の高僧」
「魔術師の城塞」
「勝負の終わり」
早川書房


太古の昔、7人の神々が世界を創り、それぞれの民を治めていた。しかし長兄が創り出した<珠>を巡り、熾烈な戦いとなる。長兄神アルダーの弟子である魔術師ベルガラスは、激闘の末に邪神トラクを倒す。それが数千年の昔より語り継がれた神話であった。
少年ガリオンは、叔母であるポルと共に平和な農園で暮らしていたが、ある日突然彼が直面しなければならなかったものは、神話の昔より<予言>されていた彼の運命だった。トラクの復活の日に再び起こるとされる戦いに備え、仲間と共にその成就と試練の旅に立つ。

このファンタジーは、「指輪物語」の正式な継承者としての位置づけになるという。確かに設定で重なる面もあるが、実際「指輪」より遥かに娯楽性が高い。悪く言えば軽くて読みやすい。自慢じゃないが、未だ私は「指輪」を読了できてない。(威張り)

主人公は少年であるガリオンなので、彼の成長物語としての側面も持つ。このガリオン君、非常に素直で良い心根の持ち主なのだが、いつまでもどこか頼りなく、旅の間中、思春期の迷いの真っ只中にいる。彼が迎える”目覚め”の後、その膨大な力と共にあるには、あまりに不安定で未熟である。しかし同時にこの性格こそが、彼が予言された座に就くにあたり、非常に重要な意味を持つのだ。

ガリオンを囲む脇役達、と言うにはあまりにも勿体無い、非常に個性と力量を兼ね備えた仲間が常に共に在る。魔術師ベルガラスを始め、娘のポルガラ、王族のシルク、武芸に優れたバラク、善人ダーニク……どのキャラでも十分主人公を勤められるだけのものがある。敵方のトラクやゼダー達も然り。そもそも神話だけでも、本当に語るには数冊を要するだけの規模なのだ。

実に壮大で、時間的にも空間的にもスケールが大きく、人物も国も、文句のつけようがないほど良く練られた形をもっている。私はやったことはないけれど、RPG的要素が濃厚らしい。
しかしその緻密な設定の上に立つのは、くっきりと明快な光と闇の対決の物語だ。そして登場人物達も、抱える過去や悩みの重さがのしかかるのにも関わらず、常に目は前を向き、ユーモアをたやすことがない。そしてガリオンの不安定さをカバーして余りある有能さと勇気を示す。
反して、悪役側の方は虐待・拷問・殺人などなど、これまた雄弁に堂々と悪である。このような分かり易い善悪の書き分けが、この長い物語を一気に読む進める原動力の一つであると思う。

これは7人の神々を崇める国同士の戦いの物語でもあり、各国の環境や国民像の設定も面白い。「○○人はこうだ」と決め付けるやり方は、こちらの現実では嫌悪の念を呼ぶものなのに、この本の中ではそれがまるで鋳型であるかのように、各国人の設定をはみ出すことがない。こちらの世界も、ここまで単純であれば良いものだけど、と笑いながら受け入れる。

確かに神と魔術師は存在するが、超次元のエリアの割合は決して多くない。自らの努力と勇気でもって進む旅の、その果てにこそ出現するもの、との色合いが濃い。
その証拠に、ベルガラス達が持つ力は”魔術”のそれではない。彼はガリオンを導く時、それは<意志>と<言葉>だと強調する。
「必要なのは<意志>であり、その<意志>を伝える手段として<言葉>がある。本当のものは全て<意志>の中にあるのだ」
だからこそ力をふるう為には、その<意志>が全きものであることが不可欠になる。光や闇という区別だけでなく、その力を使う理由と判断、そして覚悟が備わってこそのものなのだ。これが同時に、この物語の根幹を成すものの一つではないだろうか。

文庫全巻で約1,500ページという長大さだが、すでに私は読み返して3回目になる。悪く言えば単純なストーリーではあるのだが、はっきりとした善と悪のぶつかり合いが快く、楽しければ笑って、悲しければ泣いて、そんな裏表のない筋立ては、読者に疲れと飽きを感じさせることがない。
この物語の前史に当たるベルガラスとポルガラの物語、「マロリオン物語」という続編もある。まだまだガリオン達との縁があるのが喜ばしい。
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  by wordworm | 2006-09-29 04:32

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