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読書記録:2013年2月

雲霧

池波正太郎 「雲霧仁左衛門」(前

久々の池波時代劇。とある本で、マイナーだけど、池波作品の中で一番好き、という文を読んで、ソッコーで買ってしまったよ。
ヒーローや勧善懲悪色は薄いが、だから面白い。芸術ともいえるほどの大盗賊一味と、執念と頭脳で対抗する火付盗賊改方の駆け引きで、手に汗握るドラマの連続。
ラストが、なんとも言えずにほろりとさせられるのは、さすが池波氏。


黄昏に

ヨハン・テリオン 「黄昏に眠る秋」

切ないなあ……北欧の良い面ばかりが取り上げられる昨今だけど、実はこういう場所の方がずっと多いのを忘れてしまいがち。
年老いた男と、娘と、行方不明になった孫。登場人物も限られた中で、過去と現在が交錯する。
正義が行われた、とは言い切れない結末に肩を落としつつ、それでもこうやって日々は続いていくんだろう、と思わせられる。


RDG4

荻原規子 「RDG4 レッドデータガール 世界遺産の少女」

先月の記録で、待てる自信はない、と書いた通り、すぐに買ってしまった、発売されたばかりの4巻。
まだまだじりじりさせられる展開だけど、一つ一つ、布石が確実に置かれているような感もあり。
5・6巻が怒涛の展開になりそうで、あああ、早く続きが読みたい、読みたいのだ。


魔法無用の

シャンナ・スウェンドソン 「魔法無用のマジカルミッション」

これも、大好きなシリーズ。今までの巻も、何度も読み返しては飽きないまま。
前の巻で、オーウェンが魔力を失って、シリーズが終わり?とハラハラしたけど、「セカンドシーズン」と銘打っての再開。アメリカドラマかっつーの。
でも、相変わらず楽しく、わいわい、どきどきと。且つ、今後のストーリーのプロローグのようで、また続きをわくわくしながら待つ。


アレクシア女史、女王 アレクシア女史、埃及

ゲイル・ギャリガー 「アレクシア女史、女王陛下の暗殺を憂う」
          「アレクシア女史、埃及で木乃伊と踊る」


楽しかったアレクシア女史のシリーズも、これで完結。
プルーデンスはどんな子なんだろうと思っていたら、なるほど、こういう子だったか。
過去のあれこれもひっくるめて、大きな、大きな、大団円。
ちょっとはしょった気もしないでもないけど、いやあ、面白かった。爽快・軽快で、退屈しないファンタジー。
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  by wordworm | 2013-03-15 11:00

読書記録:2012年2月

ミレニアム3

スティーグ・ラーソン 「ミレニアム3:眠れる女と狂卓の騎士」(上・下)

三部作のラスト。1・2巻から引き続き、ジェットコースターのような展開と、人間模様の綾も鮮やかで、最後の最後まで、息つく暇もなく読み通した。
本当は十部作の予定であったとのこと、作者の急逝がつくづく惜しまれる。


金星特急5

嬉野君 「金星特急」5

ライトノベルと侮るべからず。実はアマチュア時代から嬉野さんのファンで、デビューされた時は歓声を上げたものだった。
未来ファンタジーなのだけど、各国をバックパッカーとして巡ったという作者の知識と経験が設定に生かされて、臨場感溢れる世界を作り上げている。
続きがー、続きがーーーー。


深煎りロースト

クレオ・コイル 「深煎りローストはやけどのもと」

コーヒーショップを舞台にしたこのコージーも、とうとう9巻目。
すごく面白いというわけではないのだけど、ほのぼの・軽めに進行する中に、その軽さに良く合うレベルの謎解きが用意されている。あ、けなしてるわけではありません。
コーヒードリンクについての雑学が得られるのが好き。お菓子や料理のレシピも付いているのだが、大変アメリカーンなので作らない……


夏の夜の悪い夢

ジェイニー・ボライソー 「夏の夜のわるい夢」

こちらも同様、コージーの6巻目。
が、なかなか本格派であるのと、舞台であるイギリスのコーンウォール地方の情景描写が好きで、お気に入りのシリーズ。
主人公の、じりじりした恋の行方も楽しみで。


今をたよりに

ジル・チャーチル 「今をたよりに」

ジル・チャーチルは大好きで、このシリーズも最初は面白かったのだけど、今作にはちょっとがっかりかも。
ミステリーがミステリーになっていないというか、どたばた騒ぎで終わってしまっている。


感謝祭の勇敢な七面鳥

レスリー・メイヤー 「感謝祭の勇敢な七面鳥」

主婦探偵シリーズで、巻を重ねるごとに年月も経っているので、子供達が大きくなっていく様子も読むことができるのが、秘かな楽しみ。
大学に進学した長男の話に興味津々で、せっかくの謎解きをきちんと楽しみませんでした、ごめんなさい。


コージー作家の秘密の原稿

G.M.マリエット 「コージー作家の秘密の原稿」

コージー好きな私に、このタイトルを出されたら、そらあ買うでしょう。だけど中身は、コージーよりはぐっとシリアスかも。
これもシリーズだそうなので、次作が楽しみ。


ピザマンの事件簿2

L.T.フォークス 「ピザマンの事件簿2:犯人捜しはつらいよ」

作者が居住地以外は謎、というシリーズだけど、まあそれはどうでもいい。(おい)
レッドネックのおじさん達が頑張るのだけど、テンポの良い展開が小気味良い。なんというか、アメリカの青春物語のおじさん版みたいな。


暗い鏡の中に

ヘレン・マクロイ 「暗い鏡の中に」

書かれたのが1950年なので、古さはあるのだけど、幻想と殺人と心理を巧みに組み合わせたストーリーが見事。
ミステリーとしては単純なのだが、筆の細かさがそれを補ってる。


山田風太郎 「八犬傳」(上・下)

友人に借りた本。
NHKの「南総里見八犬伝」が大好きだったということで、彼女と興味が一致した私に、お薦めとして貸してくれたもの。読みながら、当時の主題歌がぐるぐる頭の中を巡る、巡る。
と言いつつ、八犬伝の現代語訳なわけではなく、作者の馬琴の生涯と画家の北斎との交流をもう一つの軸とした小説になっていて、一冊で二度美味しい本。

*-*-*-*-*-*-*-*-*

友人から借りたマンガも。

岡野玲子 「陰陽師」(全13巻)

  〃    「コーリング」(全3巻)

うーん、岡野玲子さんは色々と好きではあるのだが、やっぱりわかりにくいし、物足りない。
絵や傾向は好みでありながら、作品としてはそれほど面白味が、というか。(悩)
ちなみに「コーリング」の原作は、昔から大好きなファンタジー
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  by wordworm | 2012-03-03 08:07

「憑神」

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浅田次郎著
「憑神」
新潮社 (2007/04)
ISBN-10: 410101924X

最近浅田さん好きになった友人から借りた本。

幕末期の江戸、主人公は貧乏御家人の別所彦四郎。文武に秀でながらも、並外れた悪運の持ち主であるようで、せっかく婿入りした家からは追い出され、職も失い、兄夫婦と母の暮らす実家で、肩身の狭い居候。
そんな彼がある晩酔って、とあるみすぼらしい祠に手を合わせてしまったから、さあ大変。神は神でも貧乏神にとりつかれ、更には疫病神まで現れて、果てにはあの神様まで来るという。

初っ端から引きこまれる。や、みじめったらしい彦四郎の様子の始まりなのだけど、その情けなさが浅田さんらしく、妙に先の展開を楽しみにさせられる。

幕末期の描写がまた良い。実際を知っているわけではないのに、ああ、きっとこうであったのだろうと思わせられる、倦怠感と無力感に溢れている。
武士道というものが消滅しかかった、そんな末期の世の中で、義理や人情、勤勉や孝行といった概念が、けなされ見下される様は、時代を超えて繰り返される現象だ。

どん底にいた彦四郎が、貧乏神との出会いから、自分の心の奥底を、そして周囲の目というものを、より深い目で見渡すようになっていく。
彼の持つ、江戸初期ならば賞賛されたであろう気質が、どのように時代と人々にそぐわなくなっているか。それを時代遅れと、負けと呼ぶのは簡単であり、変えていくこともできたであろうに、そうならないところにまた彼の悲喜劇が生まれる。

どんな馬鹿でも、最後まで貫き通せば本物だ。浅田氏はまた、こういう馬鹿を書かれるのが抜群に上手いと思う。
彦四郎にしても、周囲から疎まれ、呆れられ、貧乏神達にさえ憐れまれながらも、己の信じるところを示してみせた。命を賭けた彼の生き様に、後ろ指をさすことは誰にもできない。そこまで行き着くまでに身を翻す、そんな器用さを持った人間達に、彼を馬鹿と呼ぶ権利はない。

クサくても、どこかチープでも、やっぱり泣かされてしまうのが浅田小説。この本も、形にきれいにおさまっていないほころびは色々とあるのだけど、それでもきっちりと泣かされて。場末のバーで聞く演歌だね。
友達に甘えてばかりいないで、私も浅田氏の本を手にいれないと。
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  by wordworm | 2007-09-15 10:44

「ねこのばば」

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畠中恵著
「ねこのばば」
新潮社 (2006/11)
ISBN-10: 4101461236

読書記録で、どこに分類したらいいか未だにわかってない「しゃばけ」シリーズ。待望の文庫化、第3弾。

相変わらず、「せっせと間を置かずに、死にかかる」若だんなを中心に(…)、今回は全部で5編の短編を収録。
若だんなと妖怪たちの不思議な人情推理帖、とは良く言ったもので、今作も様々なミステリー@妖怪絡みと、冴える若だんなの推理。脇役達も健在で、思わず「また会えたね!」と喜んで声をかけたくなる。相手は妖怪だけど。

しかしいつもと少々赴きが違うのは、前2作よりやや怖目の色合い。ホラー色のものがあったり、心理的にぞっとするものが描かれていたり。
推理物という側面を持つ以上、扱う題材は”犯罪”であるので、ある意味、避けて通れない要素ではあるのだけど、今までのこのシリーズでは、そういう要素が揃いすぎているわりには(だって妖怪モノだよ)、全編に渡って漂うほのぼのムードが救いとなって、背筋を寒くするようなことはなかったのだな。

でも例えば「茶巾たまご」の最後に明かされる、犯人の言葉。
「産土」の、暗闇にひっそりと少しずつ引きずり込まれていくような恐怖感。
さすがの畠中さんのほのぼの文章でも、ぞっとする気持ちは抑えられず。でもそんなところが、このシリーズも良いペースで描きこまれてきているのだなあ、とかえって嬉しくもなってしまう。

次作の文庫化、文庫化。一刻も早くお願いします。ハードカバーは許して下さい……
あ、でも畠中さんが出し始めた別シリーズは読んでみたいかも。
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  by wordworm | 2007-08-11 08:26

「はやぶさ新八御用旅」(一)東海道五十三次

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平岩弓枝著
「はやぶさ新八御用旅」(一)東海道五十三次
講談社 (2004/03)
ISBN-13: 978-4062739795


LAのブックオフで見かけて、おおこれは平岩さんの有名な、ぜひ買わねば、と思って勇んで買った。読み始めて途中で、これは私の求めていた「御用帳」ではなく、「御用旅」シリーズだったということに気がついた。(…)
でも面白ければ何でもいい。(開き直り)

主君の密命を受けて、江戸から京都までの東海道の旅に発った新八郎。国許に向かう姫を、陰ながら守るというのが使命であったが、道中出会った家族や知り合いや、果ては自ら姫と称する者や。出会う事件を片付けながら、真の使命を果たそうとする新八郎だが。

平岩さんの作品では、「御宿かわせみ」を読んでいて。女性らしい、細やかで柔らかい描写がとても好ましいシリーズだが、こちらでは侍が主人公となると、どういう筆になるのかと思っていた。
爽やかで男らしく、機転が利いて腕も立つ。「御用帳」を読んでないのでわからないのが悔しいが、少なくともこの巻を読んだ限りでは、理想的な時代劇の主人公が生き生きと動いている。

守るべき本当の”姫”の正体は、最後までわからないようになっていて、そこに至るまでの道中の道連れ全て、それぞれに頭を悩ましてしまったけれど、いやあその人だったんですか!という意外な結末が用意されていたよ。いやはや、全く思いもよらない方で。

東海道の旅なので、関所やそれに関するルール、また各地の名産などが事細かにわかり、旅日記としてもとても面白い。
続きを読みたい、というかその前に、今度こそ「御用帳」を入手せねば。
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  by wordworm | 2007-01-23 13:19

「傷~慶次郎縁側日記」

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北原亞以子著
「傷~慶次郎縁側日記」
新潮社 (2001/03)
ISBN-13: 978-4101414140


元・同心の森口慶次郎が出会う人々と事件簿の第一弾。

まずは慶次郎があと半月で江戸は南町奉行所の同心から隠居する、という時から始まる。そしてこの短編集の中でも、一番悲しい事件が起こる。
実の娘が暴行を受け自殺、という悲劇に見舞われ、突きとめた犯人に対し、同心として対峙するか、親として復讐を遂げるか。そんな激しい葛藤と苦悩を描いた「その夜の雪」。
以降、酒問屋の寮番として隠居生活に入った慶次郎だが、なかなかどうして、事件は身近なところで色々と起こるのだ。

北原さんの作品は、以前にエッセイを1冊読んだ時に惹かれるものがあって、早く本業(?)の時代劇を読みたいと思っていた。どれにしようか迷ったところで、出会ったのがこの慶次郎日記だったのだね。

時代劇で今まで読んだ池波正太郎や藤沢周平に比べ、まず目に留まるのが、どこか現代に近いような文調と、非常にきめ細かな表現だ。
大げさな表現は無く、むしろ控えめに抑えた、しかしきちんと中身のある。池波氏のような娯楽性はないものの、実に誠実な印象を受ける。

時代物というと勧善懲悪がつきものだが、この作品に関してはその色合いは薄い。それより、事件に関わる人間の、正義も悪も関係なく、ただその心情を描き出すのが主眼であるようだ。
空き巣の伊太八の、”仕事”というものに対する葛藤。幼いながらも少女を助けようとする源太の涙。ろくなことにならないと知ってはいても、亭主を見捨てられないおせん。短編とは思えないほど、凝縮された感情が一文一文から溢れている。
慶次郎が主人公の位置にいるのだが、どちらかというと数々のドラマの見届け人のような、話を結末に持っていく為の案内人に見えることもある。

その時々の感情を主題とすれば、では最後はどうなるか。
この本の中の幾つかの物語は、明確な結末を持たない。ぼかすようであったり、一見尻切れトンボのようで、でも考えさせられるだけの材料は提示されていたりする。
短編の終わりになって、確かにその中で起こった事件は幕を降ろそうとする。が、登場人物達の胸からそれが消えることはなく、これからもその味わった思いを抱えて生きていく。そんな道筋が見えるのだ。
悪が罰せられて終わり、というのは、非常に胸がすっとするし、それが時代劇の醍醐味の一つであるのは間違いない。しかしこういう描き方で、こういう捉え方で、何もかも人間が関わるが故のこと、そこには途切れることのない感情があるのだ、と教えてくれる。
最初に”どこか現代”と思ったのは、この点にあるのかもしれない。

こんな時代物に出会った。大きな収穫と実感している。
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  by wordworm | 2006-12-27 05:55

「ぬしさまへ」

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畠中恵著
「ぬしさまへ」
新潮社 (2005/11/26)
ISBN-13: 978-4101461229


「しゃばけ」に続く2作目は短編集。

今日も今日とて変わりなく病気の(…)若だんな、一太郎。1作目で、常に妖怪にかしずかれる彼の生活ぶりと、見事な推理力を披露したが、2作目では6編の短編を通して、更なる鋭さと優しさ、妖怪たちの意外な面などがうかがえて、どれも非常に楽しい出来となっている。
腹違いの兄・松之助のつらい境遇や、苦境に立たされた幼馴染、お付の仁吉の恋噺。どれもほんわりとしたムードでありながら、じわりと沁みる切なさで、思わず涙を誘われる。

江戸を舞台にしているが、時代劇のような荒々しさはない。妖怪が数多出てくるのに、ホラーの不気味さは皆無。ミステリーでもあり、人情物でもあり。
世に沢山ある時代劇というジャンルの中で、見事に独自路線を築いた作品と感服する。いや、それともミステリージャンルに入るのか?

傍から見れば、体こそ弱いものの、他には何一つ不自由なく映る一太郎。しかし大店の跡継ぎとして、これで果たしてつとまるのかという焦りは常にあり、それが彼がただの坊ちゃんになるのを食い止める。人の機微を読む上手さと、逆にそういう育ちだからこそ持ちえたのかもしれぬ懐の深さを併せ持つ、彼の心の強さは人一倍だ。
それでもまだ足りないと、悩み俯く彼の姿が垣間見られる。
(私は本当に、もっと大人になりたい。凄いばかりのことは出来ずとも、せめて誰かの心の声を聞き逃さないように)
こんな思いも、外にこぼせば皆を心配させると、心の中で噛み締める。

笑って泣いて驚いて。時代物の魅力は多々あるが、こんなに柔らかく全てを味わえる小説はなかなかない。柴田ゆう氏の挿絵が、また良い味を加えている。
続刊も数冊出ていてぜひ読みたいのだが、まだ文庫化されていないので手を出せない(涙)(ああ日本の図書館が恋しい)
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  by wordworm | 2006-11-20 07:05

「しゃばけ」

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畠中恵著
「しゃばけ」
新潮社 (2004/03)
ISBN-13: 978-4101461212


2001年度日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

江戸でも有数の廻船問屋の一人息子、一太郎。大層身体が弱く、家族には真綿でくるむような扱いをされている。しかもお付の者達は全て妖怪だ。
そんな彼が、ある日目撃した人殺し。犯人は捕まったにも関わらず、続々と続く同じ型の事件。妖怪達の助けを借りて、一太郎は少しずつ真犯人に近づいていく。

これは面白かった。元マンガ家さんが書かれた小説、というところでどんなものかと思ったが、マンガのテンポの良い軽さと、しかし派手に走らない抑えた言葉遣いが、いい具合に読者の背中を押してくれる。

若旦那のそばに、常に当たり前のように妖怪がかしずいている。というところですでに異常な設定なのに、全く気負いなく淡々と話は進む。妖怪と聞くと思い浮かべるおどろおどろしさは欠片もない。
この若旦那、本当に身体が弱い。この1冊の中でも、何回寝込んだかわからない。が、心まで弱いわけではないのだろう、という仄かな期待に徐々に応え、最後には見事に証明してくれる。そもそも幼い頃から妖怪と接してきて、彼らを良くも悪くも全て受け入れている時点で、並の虚弱ッキーではないのだな。

一太郎の懐の深さは、妖怪に関してに留まらない。金持ちで甘やかされた息子という世間の目も、幼馴染の苦労も、親の過剰な心配も、全て彼なりの流儀で受け入れている。それを諦めと見る向きもあろうが、無条件で異論も感傷もなくひたっているわけではなし、彼らの感情を理解した上での受容と思う。
ともすれば自己憐憫に溺れてもおかしくない環境の中で、身体は無理でも心を健全にもてたというのは、彼の賢さと同時に、育ての親と呼んでもよい2人の妖怪の存在のおかげかと思うと、その有り得なさに笑いがこぼれる。そしてどこかほんわりと心が温かくなるのだ。

妖怪は妖怪であるが故に、いくら完璧に人型をとろうとも、価値観の相違はどうしようもない。一太郎の持つ、人と妖怪の間に立つ平衡感覚の良さが、読んでいるこちらにその不自然さを自然に感じさせる要因の一つである。
彼らの生活は、すでに数冊発行されている続刊でのぞけるらしい。読み終わった後、即”買い”リストに追加した。
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  by wordworm | 2006-09-23 04:38

獄医立花登手控え

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藤沢周平著
「春秋の檻」
「風雪の檻」
「愛憎の檻」
「人間の檻」
講談社


藤沢ファンの友人が、用心棒シリーズの次にお薦めということで貸してくれたもの。

江戸小伝馬町の牢獄に勤める青年医師・立花登。立派な医者になりたいとの野心に燃えて、江戸の町医者である叔父を頼って上京してきたものの、口うるさい叔母と娘にこき使われ、叔父は登に町医者と獄医を押し付けて酒びたり。
鬱屈とした日々を送る登だが、牢屋というところは事件に事欠かないもので。囚人からの頼まれ事で面倒に巻き込まれたり、冤罪を証明してみせたりと、得意の柔術と推理で数々の事件に携わる。

物語の出だしは、なんとも情けない登の生活ぶりから始まる。憧れ続けた叔父の実態を見せられ、使用人代わりにこき使われ、思わず思い出したよ必殺仕事人の主水さん(「婿どの!」)
おまけにどうにも真面目で洒落っ気がなく、叔母さん達の文句を言ってみたり、ご飯に不満を漏らしてみたり、それも表立ってはとても言えず、影でぶつぶつ言うばかり。

しかしそんな登が、捕り物となると見せる頭の冴え。さらに立ち回りとなった時の柔術の腕は、さすがに師範代なだけはあり。
威張っていた従妹のおちえも、登に危機を救われて以来、どんどん愛らしくなってゆく。後半はそんな2人の恋模様も楽しみの一つに数えられる。

藤沢氏の書かれる時代小説は、池波正太郎や吉川英治などと比べて、地味で生真面目というのが個人的な印象。立ち回りの派手な場面にしても、手堅い言葉が淡々と並び、爽快な激しさの色はない。
何より個々の話の終わり方。時代物であれば勧善懲悪なり義理人情なり、一件落着の味を期待するのだけれど、このシリーズではあっさりすぎるほど引いて終わっている話がちらほらあって、始めは肩透かしをくらったような気もしていた。
が、読み進めるにつれ、僭越ながらそれも氏らしいと思えるようになってきた。それは、何気ない描写にもきっと随分と勉強されたのだろうと思える跡があること、抑えた中の緻密さが揺らがないことが素人目にもうかがえるようになって、より信頼感が増したからと言える。
派手な描写や映像でごまかすことなく、ひたすら細部をも漏らすことのないように心がける実直さ。実際の時代を生きた人々に恥じることのないように、といった清廉さまで感じられる。読めば読むほど、じわじわと氏の力量に敬服するようになってくるのだ。

この借りた文庫版は”新装版”と銘打たれ、各巻末に藤沢氏の詳細な年譜が収録されている。1997年1月、肝炎の為に亡くなられた藤沢氏の業績を偲ぶ形式になっている。
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  by wordworm | 2006-08-05 13:14

「殺しの四人」

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池波正太郎著
「殺しの四人」
講談社; 新装版版 (2001/04)
ISBN-13: 978-4062731355


仕掛人・藤枝梅安シリーズの1巻目。
「剣客商売」以外の池波氏の作品を読みたくなり。有名なのはやはり「鬼平犯科帳」なのだろうけど、まずはこちらに手を出してみる。
そして「剣客…」と同様、また美味しそうなものが度々登場し、空腹時に読んではいかんと改めて思う。ううう食べたいあれもこれも。

鍼医師の梅安は名医と評判だが、実は裏では、金で殺しを請負う仕掛人の顔を持つ。かと言って、金が折り合えばどんな人間でも葬るというわけではなく、「世の中に生かしておいてはためにならぬ奴」のみという彼なりのルールがある。
本当に殺していい人間か。依頼の理由はどこにあるか。実際に仕事をするのはどういう手順で行うか。”見極め”は果たして慎重で、時には月単位での時間をかける。しかし実際にその命を断つのは、あくまで瞬間の技だ。

「剣客…」は、ある意味ヒーロー物だ。小兵衛という天才が、例え人知れず殺しを行ったところでも、その後味は爽やかで勧善懲悪の醍醐味が味わえる。
それに対して梅安の行う仕事は、人が堪えに堪えた挙句に最後に頼む綱である分、背中にそれだけの哀しみと苦しみを負うことになるものだ。得物の腕だけで背負えるものではない、深い業がそこにはある。
読み進むうちに感銘を受けるのは、梅安という人間の深さだ。そんな人の暗部を覗いて抱えて、それでも尚且つ彼の目は正義を見出すことに据えられる。その強さに感じ入りつつ、しかしそれが同時に、自身の重さを払おうとする鍵であるとも思う。

良い主人公を冠するのは良いシリーズになる。それが簡単に計れない人間であれば、尚更追わずにはいられない。
時代劇の初巻を読むのは、わかってて罠にはまるようなものなのに、まーた足を踏み入れちまったぜ……!(唇を噛み締める)(でも目はにやけ気味)
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  by wordworm | 2006-03-09 12:07

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